ブログ内検索

2017年5月27日土曜日

場面に想像力を重ねるドイツへの旅

組織に属して仕事する上では、最も合理的な方法で移動することが求められてきた。ここでの合理的な方法とは、時間と費用の両側面から、第三者に説明して合点がいくもの、と理解をしている。そのため、単純に安価な方法を選ぶ(例えば、夜行バス)だけではなく、次の移動手段までの待ち時間が少ないこと、遅延の発生が見込まれにくいために旅程の途中変更の可能性が低いもの、何より安全に移動できるもの(よってレンタカーや自家用車は避けなければならない)といった観点から選択が迫られる。フィールドワークの機会も多いので、自ずと移動が多くなるのだが、それぞれの移動手段により、移動時間をどのように過ごすのか、それを考えるのも一つの楽しみである。

もっぱら、最近の移動では落語を楽しんでいる。飛行機で移動する場合で、日本の航空会社で機内のオーディオプログラム(具体的には、JAL名人会や全日空寄席)がある場合にはそれらを、ない場合にはスマートフォンに入れた音源を、持ち込んだノイズキャンセリングヘッドホンを耳にして聞いているので、時折笑みを浮かべている私を、周りの人は怪訝に思っているかもしれない。ちなみに立川志の輔師匠のマクラで聞いた話だが、「落語は観るものではなく聞くもの」であり、上半身を固定された一人の噺家が扇子と手ぬぐいと2つの小道具により簡素な舞台装置の中で演じる物語を、話者の想像力で楽しむものである。立場も方法も異なるのだが、大学で教える仕事をするようになって、落語家の話芸を耳学問で学んでいるという格好だ。

今日はオールボーにやってきたゲストの案内で、ドイツのベルリンへと向かった。はじめてのドイツだったが、旅のお供は落語だった。オールボーからアムステルダムへ、そしてアムステルダムからまもなく役割を終えて閉鎖予定というベルリンのテーゲル空港へ、そしてバスでブランデンブルク駅まで向かい、そこからSラインで向かったオラニエンブルク(Oranienburg)でDBに乗り換え、ファステンブルク(Fürstenberg)駅へと向かった。驚いたのは、そこから乗るバスだった。なんと、今日は休日ということもあり、オンデマンド方式で、10人乗りのワゴン車が私たちを待っていたのである。

さしずめ「これもバスです(ドイツ語でrufbus、英語ではparatransit、直訳では補助交通機関)」とフロントガラスに示されたワゴンで向かった先は、トーノー自然学校(Schloss Tornow)である。お城を改装して、今、25年を迎えているという。気づけば、落語を聞いていたのは飛行機の機内だけだった。それ以外は、例えば、喧噪に満ちたベルリンのバス、多様な自転車やベビーカーが乗り降りを重ねる列車、それぞれの場面に、ドイツ語が理解できないゆえに、勝手に物語を想像して、目の前で繰り広げられている各々の生活に思いを寄せて楽しんだものの、見るからに古い教会の奥にあるお城がどのように活かされているのか、明日への想像力を膨らませて眠りにつくことにした。