「トウホクデシアワセヲカンガエル」というテーマによるアートNPOフォーラムin東北の2日目に、終日、参加した。主催団体の一つであるMMIX Labの村上タカシさんによれば「トウホグ」と記すのが適切らしい。ともあれ、今回の参加にあたっては、本日の午前中に開催された「創造的な活動への支援のカタチ、展望とその課題」という活動報告とディスカッションのモデレーターというお役をいただいていた。なんとか努め、仕事を終えた。
モデレーターというのはモデレートする役割のことだが、モデレートするとは何事なのか、感覚的にしかわからなかったので、例によって辞書を引いて調べてみた。手軽な辞書として、Appleのコンピュータに標準で入っている「プログレッシブ英和中辞典」(小学館)で「moderate」という動詞を見てみると、対義語が「extreme」の「はめをはずさない」という意味や、対置後が「radical」の「穏健派」という意味に出会った。似た言葉で「コーディネーター」があるが、コーディネートが調和という語が宛てられるのに対して、モデレートは調停という言葉が宛てられよう。
以前、同志社で大学院科目のみを担当していた頃、「ソーシャル・イノベーション研究におけるフィールドワークの視座―グループ・ダイナミックスの観点から―」という論文で、「概念に接近する4つの方法」を提示した。詳細は本文を参照願うことにして、簡潔に紹介するなら、対義語から考える、辞書を引く、語源を紐解く、前置詞を挿入する、の4つである。今回の活動紹介とディスカッションでは、アーツエイド東北、地域創造基金みやぎ「さなぶりファンド」、GBFund(企業メセナ協議会)、ココロハコブプロジェクト(トヨタ自動車)の4つの事例から、アートと震災復興支援について語られたのだが、さしずめ、この4つの「方法」のうちでは、「前置詞を挿入する」のが適切だったように思う。ともあれ、時間の都合もあり、そもそも支援とは、ということよりも、性格の異なる4つの事例について、共通の要素(いわゆる6W3Hをもとにした10項目)で整理し、さらに支援の「ルール」と「ニーズ」と「パートナー」の3点から、場を「モデレート」することにした。
自分の担当のセッションを終え、昼食の後に東北各地で展開された事例を伺い、「哲学カフェ」にのっとって全体のディスカッションが進められる中、最初と、最後の方の2回、発言をさせていただいた。最初は「昨日」と「午前」の議論の内容ついての整理を述べたのだが、閉会直前に手をあげて述べさせていただいたのは「美化」と「異化」の違いである。そこでは葬送儀礼に関するNPO活動を引き合いに出し、表面的な取り繕いでは、何かをする側の自己満足にとどまり、他者と共に幸福を実感し、それを追体験できる場面を生み出すことは困難である、ということを伝えた。それは、ことさら「震災後」すなわちfrom 3.11という視点で扱われる議論を、改めて過去を見つめて未来を見据えるthrough 3.11として、平時と非常時の双方を見ては、という提案でもあったのだが、そのように言葉にこだわってみる中で、モデレーターには、「原子炉で、核分裂によって発生する高速中性子を減速して、連鎖反応を引き起こしやすい熱中性子にする物質」となる「減速材」という意味があると知って、3.11へのこだわりが、ある種のとらわれにもなっているのかもしれない、などとも思うのであった。