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2017年5月10日水曜日

連続性を保つということ

このところ、なのか、常に、なのかわからないが、オールボー大学では公開のセミナーが続いている。特にオールボー大学では1974年の設立以来、PBL(Problem-Based-Learning:定訳では問題解決学習)を教育における学習方法(pedagogical learning methodology)に位置づけらている。そして、1992年にUNESCOで導入されたテーマ型の大学間連携事業「UNESCO Chairsプログラム」に「The Aalborg Centre for Problem Based Learning in Engineering Science and Sustainability」(通称:オールボーセンター)が2013年11月の総会において採択、翌年2014年5月26日に開設された。それもあって、今日は終日「INTERCULTURAL CHALLENGES IN PBL EDUCATION」(PBL教育における多文化共修の挑戦)のセミナーが催されると共に、午後にはLearning LabによるPBLの連続セミナーの3回目「THREE IMPLEMENTATIONS OF PBL (IN HEALTH EDUCATION) - PROJECT, CASE AND CLINIC」(PBLの3つの実装形態(特に健康学において):プロジェクト、事例、臨床)が予定されていた。

午前中にはHanne Tange先生による「Normal & deviant in international, interdisciplinary MA programmes」(大学院博士前期課程での国際的・学際的教育における規範と逸脱」と、Tom børsen先生とLone Stub Petersen先生による「Problem-based Inter- / Trans disciplinary master’s programs: the case of techno-anthropology」(大学院博士前期課程での教育における学際的・越境的な問題解決学習:技術人類学の事例から)に参加した。前者では、既に公開された論文の内容をもとに、ピエール・ブルデューの示した「国際性(internationalness)」(Bourdieu 1999, 220)と「学際性(interdisciplinarity)」(Bourdieu 1988, 58)の観点を前提に、自分は普通だと思う人ほど偏見と権力に無自覚で逸脱行動を取る人ほど差違や特別な関心を持っているとするGraham & Slee(2008)の視点から、教員の経験と学生の社会実践のインタビューが分析され、多文化共修は文化的背景や専門性の違いゆえに現場での奮闘が余儀なくされる、ややこしい(troublesome)ものであるが、自らの文化的背景や専門性を見つめ直す学びの場となることが示された。後者では、科学・技術に対する人類学において用いられる代表的な13の理論(クーンによるパラダイム論、フレックによる思考集団、ショーンによる反省的実践、クノール=セティナによる科学論、ラトゥールによるアクターネットワーク理論、ウェンガーによる実践コミュニティ、フーコーによるエピステーメー、ギャリソンによる交易圏、コリンズとエヴァンスによる相互作用的専門知、スターによるバウンダリーオブジェクト、オールボー大学名誉教授のジェイミソンとボティンによるハイブリッド・イマジネーション(混交的想像力)、ハーバーマスによる討議倫理、ラベッツによる拡大ピア・コミュニティ)に簡単に触れながら、科学・技術がより確かに社会に受け入れられ、社会の変化に応答できるための専門教育のためにカリキュラムをどう変えてきているかの報告がなされた。特に社会科学は自然科学と異なり、絶対的な真実があるわけではなく、しかし社会にインパクトを与えるために研究環境に目を見張ること(supervise the environment)が大切となるため、PBLにより多様な人々が混ざり合い、社会と関わりながら各々がどのような文化的背景のもとで育ってきたに関心を向けながら、どのような素養を高めていくかを明確にしてきているとのことでった。

午前中からのセミナーは午後にも具体的な事例の紹介がなされるようだったが、午後には4月7日のリサーチミーティングでホストプロフェッサーのCasper先生からも紹介された、Diana Stentoft先生よるPBLにおける3つの実装形態を学ぶワークショップに、もう一人のホストプロフェッサーのMogens先生と共に参加することにした。午前中のセミナーは12名が参加していたが、こちらは合計で6名ということで、最初の案内のとおり、参加者の関心にあわせて柔軟に進めていただけることになった。ということで、既にデンマークでのワークショップでは恒例となった、自己紹介と参加への思いの共有に始まり、グループワークがあいだに挟まれるという進行となった。Stenfort先生のお人柄もあり、はたまた日本からPBLを学びに来た私に配慮をいただいたのか、3つの実施形態の解説の前に、PBLに関する基本的な考え方について解説をいただいた。

PBLのレクチャーを何度か受けていると、consequences(連続性)とexemplarity(模範的存在、とでも訳しておこう)という言葉をよく耳にする。この7年ほど、立命館大学ではサービスラーニングという理論のもと、教育実践に携わってきたが、アイデアを提案にする、現場と大学を頻繁に往復する、書物と実践をつなぐ、語りと綴りの両方で伝える、そうした連続性と、他者との関わりを通して学ぶ上で他人を尊重して自分には謙虚に、という学びの場と機会を拓き、能力よりも素養が高まるよう促してきた。この1月に「指示するのではなく自ら学際的に学び始めるために〜果たしてPBLはその答えなのか?(From saying to doing interdisciplinary learning: Is problem-based learning the answer?)」という論文が公刊されたStentoft先生によれば、PBLはあくまでscaffold(骨組み、足場)であって、(1)学生たちにどのような学びを達成して欲しいのか?、(2)どのようにして学生たちはカリキュラムにおける到達目標に迫るのか?、(3)そうして設計したPBLでは教員は進行役と監督者のどちらの役割が求められているのか?の3つの問いを丁寧に扱っていくことが出発点だという。もちろん後半で丁寧に解説された3つの実装形態も参考になったのだが、グループにより協働のもとで相互に貢献しあう学びにおいて、問題を特定することがPBLの最初の段階で求められるように、そもそもPBLを導入する際にどのような構図のもとでどのようなカリキュラムとして設計し評価をしていくか、さらには対象となる学生・支える教職員・向き合う外部協力者との関係づくり、そして部屋の選定からプログラム推進のための学内調整および効果的なプログラムのための調査研究の推進など、40年あまりにわたって蓄積されてきたオールボー大学のPBLの暗黙知と実践知を存分に学ぶことができた。