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2018年3月12日月曜日

霧の中の風景

應典院に在職したことで、多くの映画に触れることができた。何せ、劇場寺院と銘打って再建された寺院である。本堂や研修室を劇団らに提供してきたものの、寺院を再建する前には秋田光彦住職が映画の脚本とプロデューサーを務めてきたこともあって、映画もまた、活動の一つの軸に据えられた。例えば月1回の「映画おしゃべり会」は、映画という文化を存分に味わっている方々のコミュニティであり、半端な関心と知識のもとで参加してしまったことの恥ずかしさを強烈に覚えている。

應典院で映画の上映活動を積極的に行うようになったのは、2005年のことである。秋田住職がかつて共に「ダイナマイトプロ」を興した、石井聰亙(現在は石井岳龍に改名)監督による最新作『鏡心・3Dサウンド完全版』の上映が契機となった。それ以来、「コミュニティ・シネマ・シリーズ」と銘打って、いくつかの作品を本堂で上映してきた。2006年3月10日、私が應典院に着任する直前に行われた第3回の『ザ・コーポレーション』の上映では、着任の発表を兼ねたトークが盛り込まれた。

そして、2006年6月、第5回目となる企画が「シネマ ロックディズ アンド ナイツ」だった。石井聰亙監督の初期作品のDVD発売を記念して行ったもので、実行委員会を結成して臨んだものだった。23日は 「ishii SOGO〈爆裂〉ナイト!」、24日は「完全制覇!石井聰亙、監督30年の全貌」、25日は「映画、そして至高の物語」と、日々、趣向を変えてのお祭りとなった。デジタルリマスターされた際のフォーマットにこだわり、プロジェクターの調達の際にはパネルの画角にも注意を向け、いくつかのデッキを駆使して上映したことを、今でもよく覚えている。

あれから12年、その実行委員を務めた方の訃報が届いた。その活躍に期待を寄せて、應典院での演劇公演や、應典院での映画ロケなどを行った俳優さんからの連絡だった。霧に包まれたデンマークの朝に届いた悲しいお知らせに、ふと、秋田住職から教えていただいた、住職が最も美しいと評した映画『霧の中の風景』(テオ・アンゲロプロス監督、1988年)を想い起こした。遠い場所からとなるが、謹んで哀悼の意を表したい。