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2013年1月10日木曜日

静かな怒り・鎮まぬ怒り

2012年度の應典院寺町倶楽部のコモンズフェスタ「とんちで越境!」が、本日より、報道カメラマン冨田さんの写真展「黄ぐまくん、被災地にいく〜東日本大震災は終っていない」とトークで開幕した。15時から3時間半にわたるトークとパーティーが開催されたのだが、冒頭、2011年3月13日に東松島で撮影された写真を紹介する折、「あの日に引き戻されそうになる」から「一番見たくないのは自分」と前置きをされたのが印象的だった。これまで、フリーの報道カメラマンとして、世界の紛争地に赴いてきた冨田さんも、今回は「押せなかった」という。現在54歳の冨田さんは、東京大空襲、広島・長崎の原爆被害を見てはいないが、現地などで当時を知る方から「どこか似ている」という声が出たこと、そして撮影を重ねる中で「知らないあいだにご遺体を踏んで歩いていたのではないか」という点などが、これまでのどの機会とも異なる、という。

 冨田さんの語りは穏やかだが、その中に、静かな怒りが込められていた。例えば、岩手・宮城・福島と、各所を回るなかで、放射線被害が指摘されるが、重金属被害、またアスベストなどにより、今後、想像を超える後遺障害が出るのでは、と指摘された。ただ、聞き手の関心を駆り立てるために、ウィットに富んだ語りも織り交ぜられば。文脈を無視して切り取ってしまうと唐突感があるかもしれないが、武論尊さん・原哲夫さんによるマンガ『北斗の拳』のシーンを例示して、発災当初の現地の状況を説明したときには、緊迫感が高まった会場の雰囲気も、一瞬、和らいだように思う。

 今回の写真展は、「関西県外避難者の会 福島フォーラム」の皆さんの協力で開催した。そもそも、今回のコモンズフェスタは、1998年の開会当初の原点回帰で、実行委員会形式での企画運営によっている。この「関西県外避難者の会 福島フォーラム」とは、文字通り、故郷を離れ、関西にて生活を送っている方々であり、いつ帰ることができるかわからないという不安の只中で、チェルノブイリにも取材を重ねてきていた冨田さんと出会ったことから、「ぜひ現在、生活の拠点である関西にて、冨田さんの写真とトークの場を儲けたい」という思いを抱き、今回の企画に結ばれた。開会にあたって読み上げられた「当事者」の願いは、静かなお寺の本堂に響いた。

ちなみに開場から開会までのあいだには、加藤登紀子さんによる「今どこにいますか」の映像を流させていただいた。YouTubeにアップロードされた日は2011年の3月24日であるから、「あの日」から2週間弱で「かなしみはあなたの胸で 大きな愛に変わるでしょう」(2分12秒〜)と歌った加藤さんの祈りを随所に垣間見るところであるが、実はこの映像の中で、歌と重ねられた現地の写真こそ、冨田さんが撮影されたものなのだ。とりわけ、「出来るだけのことをして それでも足りなくて 悔しさに泣けてくる」(2分24秒)という部分は、既に671日が経過した今でも、あるいは今こそ、涙を駆り立てると共に、最後の「出来ることをひとつづつ またひとつ 積み上げて 泣きたければ泣けばいい」(3分24秒〜)の言葉に、小さく救われる気がする。同じく本日から始まった、2階ロビーでの前谷康太郎展示「samsaara(輪廻転生)」は1月24日まで、コモンズフェスタの会期全般にわたって実施されるものの、冨田さんの写真展は16日までとなっているので、ぜひ多くの方々に、50点ほどの写真から、彼の地に思いを馳せていただければ、と願っている。