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2017年5月17日水曜日

ことばからの壁

水曜の午後はキッチンセミナー、というリズムができてきた。もちろん、料理教室ではない。キッチンセミナーとは、オールボー大学をホストに開催される、ホットな話題を深めるディスカッションの場である。したがって、アカデミックな世界における旬な素材をどう扱えばいいか、腕が試されているという意味では、料理教室の比喩がうまく響いていると言えよう。

今日の話題は「自己との対話」についてであった。キッチンセミナーの生みの親でもある、ヤーン・ヴァルシナー先生と共に共著で出版する書籍についての意見交換だった。発表者はノルウェーからやってきた。今日はノルウェーの休日とのことで、間もなくやってくるオールボーでのパレードも引き合いに出して、盛り上がる一幕もあった。

今日のセミナーでは一言も発言できず、帰ってくることになった。4日前、キッチンセミナーのメーリングリストで要約が送られてきており、目は通していたものの、議論に参加できず、コメントもできなかった。グローバリゼーションの負の側面を踏まえ社会的公正や多様性に配慮した「mundialization」をどう展望するか、幾多の可能性の中から気づかぬうちに選択されずに捨てられてしまう機会をどのようにつかみ取るか、静かな海に自らの動揺・楽しみ・苦しみをどう重ねうるか、移民どうしの世代の違いでルーツへの紐付け方にどのような違いが見られるか、難病に冒されたときに家族内の会話はどのような筋道をたどるのか、鏡を見て練習するダンサーは何から何を学んでいるのか、それら6つの事例についての議論だった。日本語ではこのように整理できる。しかし、送られてきた要約では、これらに対する結論も示されており、その点を深めきれず、何より表現しきれず、議論の時間は残っていたが終了となったのである。

デンマーク語は言うに及ばず、英語での議論にあたっては、語彙もレトリックも圧倒的に足りていない。改めて、これまで困らないように逃げ、時にごまかしてきたことに困っている。転じて、今の日本の教育では、それなりに国際人の養成に焦点が当てられているというが、果たしてどういう場面を想定して、誰によってどのような環境が作られているのだろうか。ことばの壁とよく言うが、むしろ、ことばへの壁を自ら作って自分を守ってきたことで、今になってことばの方から壁が立ち上げられている気がしており、はてさてどう越えていくか、あるいは壁づたいに歩いていくか、自らの姿勢が問われている。