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2007年2月2日金曜日

大阪学

 映画「それでもボクはやってない」を見に行ってきた。難波に出来た「TOHOシネマズ」で、である。たまたま1日ということもあって、物凄い人であった。昨年の映画興行収入は、1985年以来、21年ぶりに外国映画を上回ったというニュースもあるように、映画産業の盛り上がりは、「コンテンツビジネスブーム」との相乗効果で、活気づいていると言えよう。

 今回の映画は、「Shall we ダンス?」などで知られる周防正之監督の最新作だ。先般、「発掘!あるある大事典2」の放送休止(打ち切り発表直前)の折、「スタメン」なる番組が番組時間を繰り上げて放映された。その際にゲストで出演された監督の話も興味深かった。そもそも、実際にあった痴漢冤罪事件を映画にしよう、と取材を重ねたところ、思わぬところに興味が惹かれていったという。

 監督の興味は、痴漢冤罪の背景にある刑事事件の問題点であったという。検事の取り調べに至るまでの調書への「誘導」、また検事における起訴への思い、さらには裁判官と「国家」との関係、などなど、枚挙にいとまがない。さらに監督の関心は、裁判の「傍聴マニア」にも向けられていた。有罪率99.9%とも言われる裏側を垣間見た気がする。

 そんななか、周防監督による「リアリティ」の追求には驚かされた。キャスト、カメラワークはもとより、冤罪という「犯罪被害者への着目による被害者」への取材を重ねてきたなかで明らかになった構造的暴力を明らかにした構成力は極めて秀逸だ。言うまでもなく、痴漢は犯罪である。そのことをつとに考えさせられたのは、実は周防監督の映画よりもずっと以前、関西圏のなかでも大阪のみに掲出された「チカン、アカン」と記されたポスターであったりする。



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大阪学

文庫のためのやや長い目のあとがき(抜粋)



 九五年のことだが、阪神淡路大震災のテレビ・ニュースを見ていた。震源地の北淡町長が、「さア、こんな時は冗談を言うて大笑いせなあかん」と言うている。家が全壊したおばさんがマイクの前で、「家はないけど、元気はありまっせ」と話している。傾いたビルのオーナーが、「これは自信過剰やったわ」と地震と自信をからませて洒落をとばしている。仮設住宅の抽選に外れたおじさんがマイクを突きつけられて、「地震に当たって仮設に当たらん」と口走る。避難所に見舞いに来た村山首相に、おばさんが「来るだけやったらあかんでエ」と浴びせる。こんな光景は、ほかではあまり見られないだろう。この復興は当初考えていたよりも早いだろうと、私はテレビの前で思った。



大谷(1997) pp.216-217



<文庫版>





<ハードカバー(上記あとがきは掲載なし)>





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