昨年、「孫子の兵法」をモチーフに、就職活動に関する本を書いたらどうだ、という提案をいただいた。鳥取県智頭町で地域経営の仕組みづくりに携わって来た寺谷篤さん(現在は「篤志」と名乗っておられる)からの投げかけである。就職活動をめぐる学生たちの悲喜こもごもに触れる中で、今一度、働くとは、生きるとは、生き抜くとは何かということを問いかけてはどうか、という提案であった。そのため、守屋洋さんによる『孫子の兵法がわかる本』も頂戴し、3回ほどお目に掛かって項目を整理し、既に「あとがき」まで書いてあるのだが、肝心の本文に着手できぬまま、今に至っている。
そんな中、今日、東北からのバスで戻った後、午後から運転免許の更新に出かけたところ、講習で用いられた映像のタイトルが「孫子の兵法に学ぶ安全運転への道」というもので、大変興味深く視聴することができた。この手の映像は、運転者に対して、いきおい「こういうことになるぞ」とばかり脅すような構成とされることが多いように思う。しかし、この作品は「彼を知り、己を知れば、百戦危うからず」という要旨をもとに、事故が招かれる「自分の特徴」と「相手の特徴」を紐解く、という趣向であった。タクシー会社の協力を得て収集したドライブレコーダーの映像を用いて、講談師の方が「いったい何故こんなことが起きてしまうのか!」という決めぜりふのもと事故が起きる原因を知る、という構成に関心が向いた。
25分の物語を通じて、「人馬一体で馬を操った」ことに引きつけ、「車を操るも人を操るもこれ人なり」と前置きをし、「車を凶器に変えないために己を知る」そして、「死角に注意」し「思い込みは事故を招く」ことを踏まえ「相手の特徴を知る」ことの大切さが説かれた。また、多発傾向のある事故における相手の特徴としては、「一時停止しない自転車」、「バイクは遠くに見える」、「子どもは動く赤信号」など、具体的な例が取り上げられた。無論、自分に迫り来る危険を全て予測することは困難であるから、「いつ何時も余裕を持って運転する」ことの大切も説かれた。そして、物語は「おごりの心が油断を招き自滅を招く」と、「常に平常心で」運転するように、とまとめられる。
なかなか秀逸な構成であったと思う。そもそも、孫子の兵法は、自分たちで「会議をすること」と相手と「比較検討をすること」が重要であることを訴えた書である。そして、比較検討の際には、道(方法論)・天(現場の変化)・地(現場の変化)・将(リーダーの力量)・法(規則など統治システム)の「五事」に対して、7つの観点(七計)から勝算を判断していくという。運転が勝ち負けではない、という論理的な批判もできそうだが、こと、就職活動は、しばらく前には就職「戦線」などと言われてきた。このところの、アルバイトがTwitterに「武勇伝」のような画像を投稿して、極めて倫理観の低い行動を晒していることを思えば、「心しだいで車は凶器」となるというこの「孫子の兵法に学ぶ 安全運転への道」を手がかりとしながら、「孫子の兵法に学ぶ よい仕事への道」が書けそうな気がしてきた。
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