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2013年1月3日木曜日

老いと足

親と話をすると、自ずと幼少期の頃の暮らしの記憶が引き出される。今回の帰省では、ふと、漫画『キン肉マン』を思い出し、中でも「金のマスク編」で織り込まれたギリシャ神話の一つ、『オイディプス王』からの一節「朝は4本、昼は2本、晩は3本の足に…」という謎かけが脳裏に浮かんだ。ちなみに、こどもが父親に対抗意識を抱きながら母親への欲望を高めていくことをフロイトが「エディプス・コンプレックス」と呼んだのも、このOedipus王の物語になぞられたゆえんとされている。なお、この物語はソポクレスによる著作が、藤沢令夫版(岩波文庫)と松平千秋版(ちくま文庫)と、性格の違う邦訳で読むことができるようなので、また比較して通読してみたい。

今回、『キン肉マン』で紹介された一節が思い浮かんだ直接の要因は、初詣に共に出かけた父が、おもむろに杖を準備して歩き始めたためである。上掲のエピソードでは、盗まれた金のマスクが本物であるかどうかを確かめるため、銀のマスクが「朝には四本の足で歩き昼には二本足となり最後に夕方になると三本足になる生きものは!?」と問いかけている。調べたところによると、この話は、週刊少年ジャンプの1983年8号に掲載された「黄金のマスク編 (27)超人の使命!!の巻」で、1984年3月15日付で発行のジャンプ・コミックス「キン肉マン第15巻〜ジェロニモ絶体絶命!の巻」に収められているという。リアルタイムで呼んだ記憶があるから、小学校低学年のうちに触れた「老い」に対する気づきが、現実の世界で自分の父親の姿に見られたことに衝撃を覚えた。

老いるのは人間だけではない。例えば、社会システムもまた「劣化」という表現が用いられる。事実、昨年末に天板の崩落事故が起きた「笹子トンネル」をはじめとして、建設・土木関係のインフラの劣化は、今後の市民生活における安心・安全に大きな影を落としただろう。そもそも、現代社会は「成熟社会」や「低成長社会」あるいは「定常型社会」などと言われている。人口減少を前提とすれば、最早、現状維持がなされるだけであっても、相対的には成長していると捉えることもできそうだ。

今回、自分の実家(静岡県磐田市)と妻の実家(静岡県沼津市)へと向かったのだが、駅からの周辺の風景を、それぞれの親の車を「足」として、車窓から眺めてみると、目をつぶってから開いたところで、そのまちがどこかを言いあてることが難しいのではないか、という印象を覚えた。懐かしい建物などがないわけではないが、むしろ、いわゆるロードサイド店や、コンビニエンスストアや駐車場を含めた各種チェーン店・フランチャイズ店へと変わってしまった光景に思い出深い心象風景を重ねることの方が多かった。精確な表現を辿ることができないのだが、かつてデーブ・スペクター氏が、日本の風景は「東京・東京に似た都市・田舎・京都や奈良のような古都」の4つに分けられる、といった発言をしていたこともまた想い起こした、束の間の帰省であった。

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