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2017年5月8日月曜日

マインドセットを変えてdo-erに

ご縁とはありがたいもので、先週金曜日ノーフュンスホイスコーレにお邪魔した方々と、Ghel Architects(2000年)にお伺いすることとなった。Studio-Lの皆さんが「市民のためのまち」づくりを進めてきたヤン・ゲールさんのオフィスを尋ねるのは、ある意味、自然なことである。互いに建築設計の事務所として開設しながら、まちがよりよくなっていくプロセスを重視して各種の仕掛けに取り組んでいるためである。そして、私もまた、今は社会心理学が専門だが、学部と修士は都市計画を専攻していた上、実践的な観点からも高い関心があり、始発のバスに乗り、列車でコペンハーゲンに向かうあいだ、にわか勉強を重ねて、オフィスを訪ねた。

御年80歳のヤン・ゲールさんは既に直接プロジェクトは担当せず、1週間に1〜2度ほど所員へのアドバイスを行っているとのことで、今回の訪問ではクリエイティブ・ディレクターのDavid Simさんに対応いただいた。はじめに、山崎亮さんからStudio-Lの取り組みが紹介されると、「いやいや、仕事の哲学に共通するところがあり興味深い」(same philosophy with life first, then place and space; focus to life style, climate, culture building and last design)とコメントした上で、ゲール事務所のこれまでを説明くださった。既にゲールさんの著作は日本語でも刊行されているので、その功績は多方面で知られているが、キーワードとしてはPublic Life(公共生活、と訳すのでは伝わらない部分があろう)、公共空間、ヒューマンスケール、12の質的基準、などが挙げられる。それらを体現するものとして、数値化への調査(survey)→観察(observation)→対話(workshop)→戦略づくり(vison)という、プロセスのもとでのアーバンデザインがあり、既に250のまちでなされてきたという。

かつてSimさんはスウェーデンの大学で建築学を教える仕事に就いていたというが、学生時代にゲールさんの講義を受け、以来30年にわたってゲールさんの仕事に携わってきたという。台湾のメンバーが台風災害の後にコミュニティ・デザインに取り組むことになったことなどにも配慮をいただいて、コペンハーゲンの市内で洪水時を想定しつつグリーンベルトに整備された公共空間(Sønder Boulevard)や、ご自身も2011年の地震後に100日間滞在して100,600のアイデアを紡ぎ上げたニュージーランドのクライストチャーチでのプロジェクトにも触れられた。また、ヨーロッパはアジアの文化から多くを学ぶことができる、と、レストランのあり方(厨房が開かれていることで、調理人と食べる人の距離が近いことから観察が容易なために、調理人の学びや誇りが生まれやすい、そうしたよいコミュニケーション空間である)を例に、慶應義塾大学とのプロジェクト(Measuring the non-Measurable)や、UR(都市再生機構)への協力内容(2016年の神田でのプレイスメイキング社会実験)なども紹介された。一方で、ブラジルの貧困の地域で地下鉄の排気口周辺の遊休地をウッドデッキするなど、都心における多様な人々のコミュニティづくりには多くの経験を持ってきているが、人口減少社会におけるStudio-Lの地方創生関係(depopulation)の事例は興味深い、と関心が示された。

そして山崎さんから、「ゲールオフィスはハードからのアプローチが中心で、住民の組織化など、直接的なソフト事業を展開しないのか」と問いかけがなされた。これに対し、Simさんは、既に3拠点(コペンハーゲン、サンフランシスコ、ニューヨーク)でインターンを含めて50人を越えるスタッフを擁しているものの建築家ばかりではなく、マスタープランづくりなどではハードから入るものの、自治体などの構造改革を伴うものやキャパシティビルディングなどの際にはノウハウを伝えてソフト面から組織文化を変えていく、と回答がなされた。スタッフのランチルームでオープンサンドをいただいたことも含め、約3時間の対話のあいだ、「ヨーロッパの窓が縦長なのは、近景(人)・中景(木々)・遠景(空)が見えるから」、「雑居ビル(complex building)ほど自然(オーガニック)だ」や「慶應義塾大学とのプロジェクトでは、働きがい、学びがい、多様性の3つを幸福度の指標とした」、「都市は情報を持っている、だから私たちも情報を持つ」、「公共交通システムが整っている東京に可能性が見出せるのは、車では公共空間が生まれにくいが、公共交通を使えば生まれるから」、「cozy(居心地のいい) spaceは些細な行為から生まれる」、「デンマークでは、器が大きく飲むのに時間がかかることにちなんで、生後6ヶ月くらいになると父親がこどもをまちに連れ出すLatte papaという習慣がある」、「例えば安全という共通の目標があれば、警察など公共機関とプロジェクトを組みやすい」、「ハードとソフトは必ずつながるのだから、建設や建築の計画で全てのコストをハードに費やすのは失敗の典型」、「スイミングプールと国際会議場の両方の整備が同時に議論される意味を住民の皆さんに理解してもらえるようにすることが大事」など、多々、印象的なことばがノートに記されることになった。ちなみにゲールオフィスの後には、コペンハーゲンの都市公園「スーパーキーレン(superkilen)」を手がけたアーティスト集団「SUPERFLEX」のオフィスにもお邪魔したのだが、今日1日、まさかの日本語と英語の通訳補助を担った自分を少しだけねぎらいつつ、Simさんに頂いた「する人(do-er)」という言葉(文脈としては、自治体は任される側から促す側になれ(Municipal goernment moving from "do-er" to facilitator)というお話しで紹介されたもの)をかみしめ、オールボーへと戻ったのであった。




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