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2017年5月16日火曜日

文化の館

デンマークの公用語はデンマーク語である。EU加盟国だが、2000年9月の国民投票において53.2%の反対となったことで、1992年にオランダのマーストリヒトで調印された欧州連合条約の附帯議定書で示されたユーロには参加せず、デンマーククローネという独自通貨が用いられている。約570万人の国で、独自の言語と通貨が残されてきたことは、極東から来た私にとっても興味深い。しかし、デンマーク語の難しさは日本を出る前から知ってはいたが、改めて生活をする中でも痛感する。

こちらに来てから妻はデンマーク語のレッスンに通い始めた。もちろん、私も行けばいいのだが、1年間という滞在期間の中で言語の習得にも挑戦することが、結果としてその他のこともままならなくなるだろうと、踏み込まないことを決めた。とはいえ、逆の立場を思ってみれば、日常会話の中での挨拶程度はその国のことばで言えた方がいいと、LINEのスタンプに記された文字を解読して、折に触れて口に出せるよう、気を向けている。こんな調子では、デンマーク語の習得への道は遠い。

今日は夕方に、デンマーク語のクラスの後、オールボー市の図書館に行くツアーがあるということで、私も混ぜてもらうことにした。建物の中に小さな親水空間もあるオールボー大学の図書館の充実さ(特に客員研究員のIDでも利用できる豊富なオンラインジャーナル)にも驚いたが、市内中心部にあるオールボー図書館本館のあり方には圧倒するばかりであった。明るい館内、地下に設けられた充実の書庫、ゲーム(数人で遊ぶことができるボードゲームやPlayStationなどのビデオゲームも) も貸し出し対象とする収蔵メディアの豊富さ、飲食できるカフェの設置はもちろん、言語・芸術・数学などテーマごとのワークショップを「○○カフェ」と題して展開する企画力、知りたいことに応えていくことを使命として笑顔で待ち受ける司書コーナー(ちなみにスタンディングデスク)など、挙げていけばきりがない。全自動の貸し出しと返却にはCPR(Civil Personal Registration)ナンバーが必要なものの、逆に、日本のマイナンバー制度も行政の管理番号としての性格から、公共サービスを受けるためのIDとして方針転換すればいいのに、という不満が募ってしまう。

何より驚いたのは、司書の方が説明する最中、ある来館者がおもむろにグランドピアノを弾き始めたことだ。開架閲覧室の真ん中に設けられたピアノで、「My Way」を弾き始めたのだが、もちろん、一部の人は「おいおい始まったゼ」「もうちょっとちゃんと弾けよ」といった感じの表情を浮かべているようにも思えたが、決して「おい、自分の道を歩みすぎじゃねーのかよ!」(例えば、too much on your way!!とか…)などと誰も苦情を言いに行くのではなく、むしろ耳をそばだてる人もいれば、集中していた作業などから手を止めてリフレッシュをしている人が大半に見えた。何より、開架閲覧室の奥、通りに面したコーナーには、小さな音楽ステージも用意されており、語学レッスンも開かれている言わば国際交流センター「ELSK Aalborg」のボランティアの方によれば「ここは言わば文化の館(House of Culture)ね」とのことである。今日は小雨、それなりの雨でも傘を差さないデンマーク人の気質に似た私が、こうした館が嫌いなはずもなく、帰国後のカルチャーショックによる反動が今から怖い。


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