これまで何人かの師匠と呼ぶべき方にお世話になってきた。そのうちの一人が渥美公秀先生である。今回、師匠も含めて、3人の連名により、ある学会誌に投稿した。締め切りは今日だったが、最初の案内は2016年3月20日になされていた。
渥美先生の同窓に矢守克也先生がおられる。防災や減災の世界も含め、互いに盟友として新たな道を拓いておられると仰ぎ見ている。お二人に共通するのは相手によって言語の水準(例えば、専門用語をどこまで使うか、など)を変えて使われるということにある。ただ、矢守先生は、学生としてお出会いをさせていただいた頃から渥美先生とはまた違った言葉のセンスに感服していた。
矢守先生には2015年に日本災害情報学会の「廣井賞」を受賞されたオースティンの言語行為論をもとにされた研究もあるものの、日常の言葉の言い回しもまた、絶妙である。例えば慌てて備えたところでむしろリスクが高まる可能性があることを「駆け込み防災はやめよう」と説くこともあれば、「快速急行は早いのか遅いのかわからない」など、不意に示される巧妙なレトリックが何とも関心を引きつける。その中でも大相撲の番付から「角番教授」(業績のない人には番付を下げるように職位を下げてもいいのではないか、ということ)という言葉を使われたときには、妙に説得力を感じた。
お出会いしてから10年あまり、大学教員としての仕事を重ねてきているが、ふと「角番」になっていないか、研究者としての大学教員の立場を顧みることがある。特に今は社会心理学者という肩書きが付いて回るので、データをもって語らねばならない。ただし、そのデータは数字だけでなく、語りなどの質的なデータも含まれる。はてさて、今回はそうした質的データをもとに規定の分量ギリギリの3万2000字ほどで1本仕上げたのだが、こうして出荷した研究が認められるか否か、結果が届く日を心待ちにしながらも、まずは久々にお酒を嗜むことにした。