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2017年11月25日土曜日

ツールへのあくなき関心

明日、2012年から積極的に足を運んでいる新潟県小千谷市塩谷集落で、住民主体のまちづくり団体「塩谷分校」の定例会がある。当然ながら、私は参加ができない。そのため、今日はメールで明日の会議のための資料について、出席される方々と意見交換を行った。当初は箇条書きでまとめていたものの、いっそ「お手紙」の方が伝わるだろうと11月20日に一気に書き上げたものが、明日、配付される。

社会心理学の中でもグループ・ダイナミックスが私の専門である。グループ・ダイナミックスは「場」に関心を向けたクルト・レヴィンを祖とする。中でも、人間の行動は個性と環境の相互作用によって定まる、という理論が有名である。現代にあっては、京都大学で長らく教鞭を取られ、2017年度からは九州産業大学に移られた杉万俊夫先生により、社会構成主義ににもとづく理論として、大澤真幸先生の「規範理論」や、ヘルシンキ大学のユーリア・エンゲストローム先生の「活動理論」などがよく用いられる。

活動理論では人間による活動の基本システムを「主体と対象との関係は共同体のメンバーが媒介する」と捉える。その三者関係において「規範」と「分業」と「道具」が矛盾なく成立するよう、各種の活動は展開されると概念化されている。古くはレフ・ヴィゴツキーによる(当時の)心理学(例えば、刺激に対して反射するという生理学的立場)への批判として、「私とあなた」(つまり、主体と対象)の二者関係は道具が媒介する(つまり、社会的・文化的な観点の重視)とされている。そのため、活動理論はヴィゴツキーの理論を発展させたものとして位置づけられている。

今回のお手紙というツールもまた、私(山口)からあなた(塩谷集落の皆さん)を結ぶための工夫として導入した。そうして両者の関係がうまく結ばれるようにと、私は共同体のメンバー(例えば、大阪大学の渥美公秀先生)とのあいだで守るべき規範(例えば、締切を守る、わかりやすくまとめる、わかりやすく伝わるよう助言をする、など)を生成・維持・発展させ、そのメンバーと対象には分業(例えば、渥美先生が託された手紙を届けて必要に応じて言葉を添え、集落の皆さんは届けられた思いを受けとめて解釈の上で受け入れる、など)が担われる。まどみちおさんが作詞された童謡「やぎさんゆうびん」、また東浩樹さんの著作『存在論的、郵便的―ジャック・デリダ』など、お手紙という手段にはうまく届くかどうかのささやかな不安が伴う。他者の手を通して伝えられていく不安定さが伴うツールへの関心を深めつつ、夜には長らく放っていたiPod Touchを、ベッド脇で使うツールとして再設定した。


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